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東京地方裁判所 平成8年(ワ)4842号 判決 1998年3月24日

原告 X

右訴訟代理人弁護士 長谷川純

被告 株式会社住友銀行

右代表者代表取締役 A

右訴訟代理人弁護士 海老原元彦

同 廣田寿徳

同 竹内洋

同 馬瀬隆之

右海老原訴訟復代理人弁護士 島田邦雄

参加人 株式会社東海銀行

右代表者代表取締役 B

右訴訟代理人弁護士 松嶋泰

同 山田宰

同 雨宮英明

主文

一  参加人と原告及び被告との間で、訴外Cが別紙預金債権目録記載の預金債権を有することを確認する。

二  原告の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、被告及び参加人に生じた費用の各二分の一と原告に生じた費用とを原告の負担とし、被告及び参加人に生じたその余の費用を被告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  原告の請求

被告は、原告に対し、二億九五三〇万九四七〇円及びこれに対する平成八年四月六日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  参加人の請求

主文第一項と同旨

第二事案の概要

原告の請求は、株式会社ウェイアウトスポーツ(以下「ウェイアウト」という。)名義の被告に対する預金債権を差し押さえて転付命令を得た原告が、右預金債権の債権者がウェイアウトであるとして、被告に対してその支払を求めたものであり、参加人の請求は、C(以下「C」という。)に対する債権に基づいて右預金債権について仮差押命令を得た参加人が、原告及び被告との間で、右預金債権の債権者がCであるとして、その確認を求めたものである。

なお、原告は、参加人の右参加の訴えにつき、これを却下するとの判決を求めた。

一  前提となるべき事実

1  参加人は、Cに対して不法行為に基づく債権を有するとして、平成四年二月一〇日、ウェイアウト名義の被告に対する普通預金債権(口座番号<省略>。以下、右債権を「本件普通預金債権」といい、その口座を「本件普通預金口座」という。)について、仮差押命令を得た(甲第三号証)。

被告は、右仮差押命令の送達を受け、同月一二日ころ、本件普通預金債権を別紙預金債権目録記載の預金債権(以下「本件別段預金債権」という。)の口座に振り替えた<証拠省略>。

2(一)  原告は、D(以下「D」という。)が代表取締役である株式会社ロッドモーターズに対し、平成三年五月二五日、弁済期を平成四年六月末日として次のとおり三億円を貸し付けた。

利息及び支払方法 年一割の割合による利息を毎月末日限り原告の住所に持参して支払う。

遅延損害金 年二割

特約 利息の支払を一回でも怠った場合は、当然に期限の利益を喪失する。

ウェイアウトは、原告に対し、平成三年五月二五日、右契約に基づく株式会社ロッドモーターズの債務について連帯して保証した<証拠省略>。

(二)  原告は、ウェイアウトに対し、右保証債務の履行を請求する訴訟を東京地方裁判所に提起し、この事件については、平成七年七月二七日、原告の請求を認容する判決が言い渡され、同判決は確定した<証拠省略>。

(三)  原告は、平成七年八月一〇日、右債務名義により本件別段預金債権の差押命令を得た。この差押命令は、翌一一日、被告に送達された<証拠省略>。

原告は、平成八年三月八日、本件別段預金債権について東京地方裁判所において転付命令を得た。この転付命令は、同月一二日、ウェイアウト及び被告に対して送達され、同月二〇日確定した<証拠省略>。

二  争点

1  本件参加が許されるか。

2  本件普通預金債権の債権者は、ウェイアウトあるいはCのいずれであるか。

三  争点に関する当事者の主張

1  参加人

(一) Cは、参加人の元従業員であるE(以下「E」という。)と共謀し、平成三年六月一三日、オリックスアルファ株式会社(以下「オリックスアルファ」という。)から、預金担保による融資を受けるようにみせかけ、五〇億円を名目上借り受けることとして、利息を控除した四八億七八九七万二六〇三円を参加人秋葉原支店のウェイアウトの預金口座宛に振り込ませて騙取した。

参加人は、C及びEの右不法行為により、民法七一五条三項及び七一九条に基づき、オリックスアルファに対して右同額の損害賠償債務を負担し、右両名に対して同額の不法行為に基づく債権を取得した。

(二) その後、Cは、右の利息控除分に相当する金員を加えて、五〇億円のウェイアウト名義の通知預金を作成したうえ、同年六月二〇日、被告住友ツインビル支店に自らの印章を使ってウェイアウト名義で本件普通預金口座を開設し、Eに前記通知預金を解約させて払い戻した金員を右口座に振り込ませた。

(三) 以上のとおり、Cは、ウェイアウトの名義を利用してオリックスアルファから金員を騙取し、これを本件普通預金口座を開設して預金し、その取引印を所持していたものであるから、本件普通預金債権の真の預金債権者は、Cである。

そして、参加人は、Cに対して前記債権を有し、Cの本件普通預金債権に対して仮差押えをしているのであるから、原被告間の本件訴訟の結果により権利を害されるというべきである。

2  原告

(一) Dは、ウェイアウトの実質的な所有者であるところ、平成三年五月一〇日、Fを代表取締役に就任させ、同人に指示してウェイアウトの業務を行わせていた。

本件普通預金口座の開設は、DがFに指示して行ったもので、この際、同行したCが所持していた印章をもって右開設手続が行われ、これ以降、Cが本件普通預金債権の通帳及び取引印を所持していた。

(二) 参加人の主張する五〇億円の貸付けは、真実オリックスアルファがウェイアウトに対して行ったものである。本件普通預金債権は、ウェイアウトに対する右貸付金が参加人秋葉原支店を経由して入金されたものであるから、本件普通預金債権の実質的預金債権者もまたウェイアウトである。ただ、Cが通帳及び取引印を所持していたことにより、一時的に本件普通預金口座を利用していただけにすぎない。

(三) Cは、平成三年七月、犯罪事実が発覚して国外に逃亡する際、ウェイアウトの実質上の代表者であるDに対し、右取引印を交付し、本件普通預金債権の処理を託し、現に平成七年三月三〇日には、Fが利息を引き出している。

したがって、仮に本件普通預金債権が当初はCに帰属するものであったとしても、平成三年七月、Cは、右取引印の交付をもってDに対して右債権の準占有を引き渡したことにより、本件普通預金債権をウェイアウトに譲渡したというべきである。

第三当裁判所の判断

一  まず、参加人の参加申出の適否について判断する。

参加人が、その主張のとおり、Cの不法行為に基づき同人に対して債権を有することは、後記認定のとおりであり、さらに、本件普通預金債権の債権者がCであるとして仮差押命令を得たことは、前記前提となるべき事実記載のとおりである。そうすると、参加人は、本件訴訟の結果次第では、右仮差押えにかかる債権を失うおそれがあり、原告と被告との間の訴訟の結果により権利を害されることは明らかであるというべきであって、本件参加申出は適法である。

二  次に、本件普通預金債権の債権者が誰かについて判断する。

1(一)  原告は、オリックスアルファがウェイアウトに対して貸し付けた金員がそのまま参加人秋葉原支店を経由して本件普通預金口座に振り込まれたものであると主張する。 確かに、本件普通預金債権の原資となった金員は、オリックスアルファからウェイアウトに対する貸付金名目で出金され、これがウェイアウト名義の参加人秋葉原支店の口座に入金されたものであること、この口座が解約されたことに伴い、右口座の金員が平成三年六月二〇日に被告住友ツインビル支店の本件普通預金口座に移し替えられ、本件普通預金債権が成立したことは、<証拠省略>及び弁論の全趣旨により認められる。

しかしながら、<証拠省略>並びに弁論の全趣旨によれば、C及びEは、従前から、共謀して、参加人支店長名義の質権設定承諾書を偽造し、貸付けを受けた金員を協力預金とするなどと偽って、貸付金が預金されてこれについて質権設定を受けられるかのように金融業者を誤信させて金員を送金させるなどしていたこと、当初はEがこれを行っていたが、後にCに対して右不正融資の仕組みを打ち明けて以後、右両名は、共謀して同様の方法で金融業者から貸付金を引き出していたこと、Cは、金融業者から形式上融資を受ける名義人として、Dが実質的に経営に当たっていたウェイアウト等を選び、さらに融資金を騙し取って自己の計算による貸付金の原資とし、又は、従前の不正融資による借入れの返済に充てることを企て、Eに参加人支店長名義の質権設定承諾書を偽造させて、質権設定を受けられるかのようにオリックスアルファを誤信させて預金担保融資の名目で前記のとおり五〇億円から利息を控除した金員を参加人秋葉原支店のウェイアウトの預金口座宛に振り込ませたこと、そして、右振込みがされて、Cが入金した先取利息分とあわせて五〇億円が通知預金口座に移し替えられると、EがCの意を受けて、平成三年六月二〇日、右口座を解約して預金の払戻手続を行い、これを参加人秋葉原支店の普通預金口座を経由して本件普通預金口座に送金したこと、この口座は、右同日、CがFを帯同して開設手続を行ったものであり、その後、Cが通帳及び取引印を所持し、右口座から金員の払戻しを受けて自己の借入金の返済に充てるなどしたこと、また、C及びEは、右同日、協和商工信用株式会社から右同様の方法で、ウェイアウト名義で三〇億円の貸付金から利息を控除した金員の入金を受けたこと、これについても、右同様に利息分が足された三〇億円が同月二七日に本件普通預金口座に入金され、前記五〇億円とあわせてCの使途に充てられたこと、本件別段預金債権は、右の合計八〇億円の預金の残債権であることが認められ、これらの事実は原告及び被告において認めてはいないものの積極的には争っていない点であって、右認定に反する証拠はない。

(二)  右事実によれば、オリックスアルファ及び協和商工信用株式会社から参加人秋葉原支店に入金された金員は、CがEと共謀の上騙取したものであって、オリックスアルファ及び協和商工信用株式会社に対する関係では、ウェイアウトの名義で貸付けを受けた形が取られているものの、ウェイアウト自身はこれを借り受けて取得する意思は全くなく、ウェイアウトとCとの間では、Cがこれを取得し、使途を自由に決めることができる金員と認識されていたものというべきである。したがって、参加人に対する右預金債権の債権者は当初からCであったということができ、これを移し替えた本件普通預金債権の債権者もまたCであったというべきである。

2  次に、原告は、CがDに対して本件普通預金債権の準占有を引き渡したことから、右債権がウェイアウトに移転したと主張し、証人Fの証言によれば、Cは、平成三年七月下旬、逮捕を免れるため国外に逃亡し、そのころ、Dに対し、本件普通預金債権の通帳及び取引印を引き渡したことが認められる。

しかし、CがDに対し、右引渡しの際に自己の貸付金の回収等の資産管理を委任したという以上に、CがDあるいはウェイアウトに対して本件普通預金債権を譲渡したことを認めるに足りる証拠はなく、原告の主張は採用できない。

三  以上によれば、原告の請求はその余について判断するまでもなく理由がなく、参加人の請求は理由がある。

(裁判長裁判官 相良朋紀 裁判官 安浪亮介 永山倫代)

<以下省略>

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